Whiskey Dust




野伏にとって夜襲に遭うことはほぼ日常であったし、徘徊するオーク共を虱潰しに倒してゆくのがまさに野伏の仕事と言っても間違いではない。

最小限に小さくした松明の火を片手に、抜き身の剣を片手に振るいながらハルバラドは相方の様子を窺った。
二人旅の相方アラゴルンの闘いぶりは、今夜に限ってどういうわけかハルバラドを無性に苛立たせるものだった。
常ならば一撃のところが、切っ先で掠ってから二の太刀を出したり、逆に絶命したオークに無用の火を掛けたりと無駄ばかりが目に付いた。
されど助太刀を要するほどでもなく、おのれの預けている背中を危惧するほどの危うさではなかったのでハルバラドは努めて放っておいた。


暗黙のうちに決まる『それぞれのノルマ』を果たし終わって二人は構えを解いた。
アラゴルンのいつにない血走った目が気になったが、敢えて口にせずハルバラドは口の端で笑った。

『たまには屋根付きで寝るか』

アラゴルンとて自分のやった若造のような戦闘に気付かぬ筈はなかった。
自ら野宿の小さな焚き火をブーツで踏み消しながら答える。

『そうだな』

二人はすくない荷物を纏め、揃いのチャコールグレイのマントを身体に巻いた。



中つ国何処の村に入っても、野伏に対する反応はたいてい同じだった。
気味の悪い厳しげな風貌の彼らに係わり合いは持ちたくない、されど辺境警備としての彼らの功績は無碍には出来ない、といった様子である。
今晩二人が入った村も同様で、門番はオークの返り血を染ませた野伏たちの袖を忌むように見てから無言で門扉を開けた。
酒場兼宿屋、というスタイルはこの辺りなら何処でも同じで、気味は悪いが金払いは良い野伏はやはり歓迎も断りもされない。
二人は何度か世話になった事のある『鰊亭』の扉を押した。

地元民の酒場となっている一階は、煙草の煙や料理の湯気や脂が染み付いて決して明るいものではなかったが、暗い森林の夜に慣れた野伏の目には眩しく感じられた。
店は近場の者、赤く丸い鼻をした農夫、鉱夫、そして海産物を売りに来たらしい潮焼けした髪の漁夫たちでごった返している。

ハルバラドが先に立って奥のテーブルを確保する。
ハルバラドもアラゴルンも、自らの貴き血筋を意識するよりもはるかに、このような酒場の煙に巻かれていたほうが落ち着くタイプであった。
だから幾ばくかの同胞たちのなかでも特に気が合うのかもしれない。


濃いエールを飲みながら、北国特有の塩気の強い煮込み料理を啜りこんだ。
宿の主人もまた北国特有の、愛想の無い胡麻塩髭の男であったが、客への気配りは一流で余所者を差別したりはしない。
質素な食事の済んだ野伏一行のテーブルを片付けると、厚手の硝子のグラスを置いて大振りのピッチャーから琥珀色の酒を注いだ。

『ちゃんと樽出しだからよう旦那。飲兵衛が多くて敵わんからこれで回ってますがね』

赤銅のピッチャーをちょいと挙げながら、主人はにこりともせずに去っていった。

『冬じゃねえから氷はねえ、済まねえが』


二人はくすんだ硝子のグラスから、亭主のプライドの掛かった蒸留酒を含んだ。
鼻に抜ける刺激をむしろ楽しみながら息を吐く。

『どうした、アラゴルン』

ハルバラドは机の下のアラゴルンのブーツを軽く蹴りながら言う。

『お前の高潔な魂を揺さぶって止まぬのは何だ?裂け谷にまします貴き夕星の姫か?・・・それとも、姫の不在を慰んでくれる闇の森のエルフの王子か?』

グラスから離した上唇を舐めながらアラゴルンはハルバラドを睨み上げた。

『ふざけんじゃねえ、ハルバラド』

それでもアラゴルンの瞳は笑っている。
ハルバラドは目で主人に酒の継ぎ足しを頼みながら混ぜ返す。

『下穿きの前をもっこりさせながらオーク斬ってる奴と組むのは金輪際御免さ』

アラゴルンの反論は二人のグラスを埋めに来た主人に遮られる。
ハルバラドは頭の後ろに手を組んで反り返っている。

主人が去るとアラゴルンはあからさまに眉を顰めてハルバラドを睨んだ。

『好きに言ってろよ』

アラゴルンの少し鼻にかかった声が言い捨てる。

ハルバラドは楽しげに身を乗り出すと、アラゴルンの骨ばった手に手を重ねた。

『俺で良ければどうだ?息抜きに』

アラゴルンは重ねられた手を眺めながらまた軽く笑った。

『本気かよ』

ハルバラドはブーツの上の膝をアラゴルンの腿に擦り付ける。

『まあ、俺は少なくともお前となら寝ても悪くないね』

ハルバラドの直截な物言いにアラゴルンは思わず周りを見回した。

『誰も聞いちゃいねえさ、おめえの色気に参っちまったヤツが居れば別だろうがな』

アラゴルンは野伏の旅に出てからの数十年を思い、苦楽をともにしたハルバラドのことを思ったが、酒と酒場の空気に噎せ返るように視界が揺れた。
ハルバラドは立ち上がりざまにアラゴルンの手を取って唇に当てた。

『上がるぞ、2階』

そのまま手を引いたハルバラドの躯体もまたよろめくのを見て、アラゴルンは鼻の奥で笑った。
妙な共犯者意識が生まれるのは酒場の常か、戦の常か。



酔っていながら、なお二人は宿の部屋の普請具合を調べて回った。
アラゴルンは窓に嵌った格子の強度を確かめつつ、窓を開けて外の音に耳を澄ます。
その背後から、ハルバラドは忍び寄って抱きつくとアラゴルンの耳を唇で塞いだ。

『まだ不安か?』

何処で息絶えても知れぬこの身の上、もしも捧げるとしたらもしや正統の王ともなるやも知れぬこの男の為と、そんな事はこんな時言わぬのが正しい。

『生きていても、お前の治世は来ないかも知れぬのだぞ?』

ハルバラドは裏腹のことを言う。

『分かっている』

ハルバラドの吐息の為か言葉のためか身体を硬くするアラゴルンにハルバラドははっきりと欲情した。

『まあ、それならばおれは生き永らえることは無いさ』

アラゴルンに聴こえないほどの声で呟きながら、彼の締まった胸に回した手で窓際から引き離すとハルバラドはアラゴルンもろとも寝台に倒れこんだ。

『どうする?アラゴルン。上がいいか?下がいいか?』

アラゴルンは苦笑した。ハルバラドの優しさが身に沁みるようだった。

『お前がそういう奴だとは知らなかったよ。今晩は疲れてるから下がいいね』

『待ったはねえぞ』

『次はねえぞ』

混ぜ返すアラゴルンに、それでもハルバラドは嬉しそうに乗りかかり、膝で脚を割った。
身体にぴったり付く革のズボンから刺激が直接伝わる。

『はぁっ・・・』

吐息とともに反り返ったアラゴルンの胸の留め具をハルバラドの無骨な指が弾いてゆく。
顕わになった首筋と胸にハルバラドは顔を埋めた。

『お前の血と汗の匂いが好きさ』

這わせた舌で胸の突起を舐め上げると、アラゴルンの手がハルバラドの長い黒髪を掴む。

『それなら思う存分味わえ』

そうさせてもらう、とばかりにハルバラドはアラゴルンのチュニックを脱がすと自らも着衣を剥ぎ取った。
合わさった肌から鼓動が伝わるようだった。

それでも亡国の民の者同士、孤独を埋めるなどという感傷に浸るのはごめんだった。
似た者同士ながら、彼こそが王であり忠誠を誓うべき相手である事も今は忘れたかった。

ハルバラドは無造作にアラゴルンの下肢の中心に手を伸ばした。
彼のさらに荒くなる息を感じながらまさぐる様に手を動かす。

『舐めて欲しいか』

単刀直入な物言いこそがふさわしい。

『っ・・・あぁ・・・』

『それなら俺のも舐めてくれ』

ハルバラドは向きを変えてアラゴルンの横に身体を延べつつ、アラゴルンの頭を跨ぐように仕掛けた。

すでに軽く快感に流されかけているアラゴルンは浮かされたようにハルバラドのものを掴む。
指で扱くようにしながら、アラゴルンはハルバラドに唇を寄せた。

ハルバラドは見えないながらアラゴルンの細い指と、小さく鋭い舌を想像した。

『流石だな・・・英雄ソロンギルよ・・・中つ国じゅうの若君を誑し込みやがって』

口の中でこんなに硬くなりながら何を言うか、とアラゴルンは呆れながら、仕返しに軽く歯を立ててやった。

『うっ・・・はぁ、悪くねえぞ、もっと頼む』

ハルバラドは自分から腰を揺らしながら言う。
軽口でむしろ煽りながらもハルバラドはアラゴルンを隅まで愛撫し、元々固すぎるようなその身体をやわらげていった。

『ハルバラド・・・もう、来い』

指を使われる刺激に焦れて、アラゴルンはハルバラドを口から離した。
口の端から垂れた唾液を自ら拭う。

『仰せの通りに』

ハルバラドは丁重な物言いと全く関係なく、アラゴルンを四つ這いにさせて乗り掛かった。

『んっ・・・』

声にならない掠れた息を詰めて、アラゴルンの均整の取れた背中が反り返る。

ハルバラドは今まで経験したことの無い締め付けに身を震わせた。
そして黒髪が無造作に散る中から鼻先で耳を探って囁いた。

『いい身体してやがるな・・・本気になってきた』

アラゴルンは言い返す余裕が無くなって荒い息をついた。

身体の前に回った手が胸から腰をゆっくりと辿って張り詰めた中心を愛撫すると、アラゴルンはハルバラドをむしろ追い立てるように自ら腰を振った。

アラゴルンの細い腰を掴むハルバラドの手が汗で滑る。

逞しい身体を震わせ、ハルバラドは先に達すると、そのまま後戯を楽しむようにアラゴルンを高みに誘った。


ふたりは崩れるように無造作に倒れこんだ。

既に階下の雑音も絶え、整うのを待つ熱い息の合間になにか夜の生き物のかすかな鳴き声が耳に届いた。

『今晩は良く眠れる』

ハルバラドは仰向けのまま、頭の後ろに手を組んで目を閉じ、それきり何も言わなかった。
アラゴルンは敢えてハルバラドに背を向けるように身体を丸めながら、ひそかにこの無二の友に感謝の言葉を告げた。



Fin



ハルバラドのビジュアルは、私の脳内では勝手にヴィンセント・ギャロになってます。
もう少し枯れたというか地味な感じで妄想するのはロバート・カーライルです。
馳夫よりさらに飄々として明るくて、ちょっとキレたら怖そうなイメージです(笑)
もっと言ってしまえば、ジョニーデップ様でも構わないと思われ。
皆、ヴィゴと共演して欲しい俳優さんたちだったりするのですが。

ハルバラドとアラゴルンは本当に親友でただの攻め友達でもいいのですがね。
スラッシュでやるなら絆の深さと裏腹なドライさ加減で行きたいと思ってました。

ハルバラドはアラゴルンとは戦友で同志で身内、普段は対等だけれど、いつかクリティカルな時が来たら自分が身を捨ててアラゴルンを守らなくてはいけないと思っている、という想像は結末を知っているがゆえの予定論でしょうか?


Whiskey DustはJake E. Leeのギターが泣きまくるBADLANDSてバンドの曲名です。
でも音源がどっか行ってしまって見当たらないので、Stone RosesとかSantanaとか渋ギター聴きまくって一気に書きました。



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