e v e r g r e e n
この山間の要塞ヘルム峡谷の角笛城に槌手王ヘルムが籠城してから、何代の王がこのローハンを治めてきただろう。
アラゴルンはその城壁に月光を浴びて立つひとりのエルフを見た。
無骨なローハンの武具を肩にあて、銀に輝くナイフの刃をあらためる姿は美しくも猛々しき上代のエルフを思わせる。
彼はこの要塞の礎よりも永くこの世を見据えてきているのだ、
そう思えばアラゴルンには彼の身体が敷石から浮き上がっているようにすら見えた。
その彼が先刻、今夜の戦いは絶望的だと言った。
それでもひとり静かに戦いの備えをしている。
ひとつ小さく息をつくと、アラゴルンはエルフの方に歩み寄った。
長靴が敷石に乾いた音を立てる。
『レゴラス、人の世は無常に見えるだろう?』
アラゴルンの口調が皮肉を含んでいる事に気付いてか気付かずか、振り向いたレゴラスは微かに微笑んでいた。
『我々だって同じさ』
その静かな微笑に救われたことこそあれ、こんな苛立ちを感じたのは初めてだった。
アラゴルンは袖丈の合わぬ鎖帷子を肩にたくし込みながら言った。
『定命の人間に同情などしなくても良い』
言わずもがなの言葉が出た。
言ってしまってから、絶望しているのはレゴラスではなく自分のほうと気付く。
『同情なんかするものか、君ですら血族しか信じられないのか』
レゴラスは張りのある厳しい眼差しでアラゴルンを見返した。
『その、あかしをお贈りになった方も嘆かれる』
アラゴルンの胸元の首飾りは、あまねき月の光に照らされて輝いている。
レゴラスにとっては痛みともなるその輝きについて、彼が言葉にしたのは初めてだった。
アラゴルンと身体を交わすたび毎に、ことを終えてから必ずレゴラスの胸を射すこの輝き、
これこそが人間の感じる哀しみに最も近いものではないかとレゴラスは想像する。
決して届かないものを求める渇望。
レゴラスの言葉を聞いて、アラゴルンは額に手を当てて俯いた。
『レゴラス、―――済まない』
あのエステルもかなり成長したようだとレゴラスは思う。
僕も私情などはこえて、この人とともに在れることを喜びとしよう。
『僕の方こそ、絶望を口にするなんて間違っていたよ』
レゴラスはアラゴルンに剣の柄を差し出した。
アラゴルンは少し恥じ入るように、それでも堂々とレゴラスの差し出した剣を受けた。
そしてレゴラスは一度外に耳をすましてから言った。
『あなたが受けているのは、同情ではなくて愛だよ』
レゴラスが見据えている北の彼方から、遠いがはっきりとした角笛の音が響いた。
『あれは、ロリアンの角笛だ』
ロリアンからの援軍の掲げる松明が、いまやもう人の目にも微かに見えるところまで来た。
驚くアラゴルンをせき立てるようにレゴラスが肩を抱いた。
『僕らにもまだ、中つ国は愛しい世界なんだ』
レゴラスははっきりと言ってアラゴルンの目をとらえた。
『それに、僕は退屈な三千年よりも君と戦うこの一夜を選ぶ』
アラゴルンは返す言葉もなく、反対の腕でレゴラスを抱き返した。
『さあアラゴルン、ヴァラールの恩寵を』
そう言って額に口付けようとするレゴラスをアラゴルンは遮った。
『ヴァラールの恩寵よりも君の支えの方がありがたい』
よれた皮手袋の右手がレゴラスの白いあごを捕らえ、ふたりは一瞬唇を重ねた。
『さあ行こう、この夜を耐え抜こうか』
最後に交わされた視線は、どこか笑っているようですらあった。
迫りくるアイゼンガルド軍の松明はすでに、ふたりの頬に熱を感じさせるほどに近づいていた。
おしまい
とうとう書いてしまった。
あの素敵なシーンを穢してしまったわー。
しかも台詞だけ引っこ抜い前後とか居場所とか無視してるし・・・。
In-warのアラレゴficは本当に難しいですね。
だって、あの映画の映像以上に萌えるものなんて作れないでしょう!
映画版TTTのヘルム城壁に立つレゴラス@オーリィの顔が焼きついて離れないのですよ。
瑞々しく強気な表情に、サルマン軍の松明の赤い光が照り返して、しかも台詞は『アラゴルン、友が一緒だ』ですよ!よ!
レゴ@オーリィの魅力炸裂です。
タイトル”evergreen”はあのシーンのレゴラスの印象ですかねー。
レゴ自身が後にアラゴルンと一緒に戦った日々を、色褪せない思い出として大切にする、って意味も含めて(ドリーマーめ)。
かたやアラゴルン@ヴィゴは迷いと誇りと悲壮な決意が混じっていて、原作にはない人間的な魅力がありますよね。
アラレゴは静かな友情と愛情という関係も魅力ですが、最近は種族差とかアルウェンを挟んだ緊張とか、そういう葛藤を超えていく過程、
そして根底には『良きものを愛する者同士の共闘、戦友関係』が流れているようなのが理想に思えます。
私がアラレゴの下敷きにしているのはオーリィとヴィゴの演技でもありますが、
最近読んだシルマリルの『トゥーリンと強弓ベレグ』だったりもします。
アラレゴよりはずっと生臭い感じのするふたりですが(特にアラゴルンとトゥーリンは人間の出来が天と地だから)、ヤオイ的には最高ですよ。
エルフ王の寵愛を嫉まれて追放され、堕落した人間の戦士トゥーリンと、
トゥーリンを追って旅に出たエルフ、強弓のベレグ。
コイツらの物語をアラレゴに絡ませたくて、下の台詞断片はオマケです。
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『似合うな、その鎧』
『こんなの着るのは初めてだ』
『君はまるで上代のエルフみたいに見える』
『僕が?奥方やエルロンド卿ではなくて?』
『ああ。向こう見ずで、強くて、生き生きしている。伝説の強弓ベレク・クーサリオンの再来みたいだ』
『剛勇のトゥーリンに惚れ込んで全てを失った?』
『嫌なことを言うな。君は人の世を何世代も見てきたくせに、みずみずしさを全くなくしていないからさ』
『それはたぶんあなたと契ったせいだ』
しかし、どうしてRなアラレゴが書けないんだろう。こんなに書きたいのに(渇望)
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